シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

ほとんどのテクノロジー成長は指数関数的ではない 1

カーツワイル氏は、あらゆるテクノロジーは指数関数的に成長していると主張しています。(『ポスト・ヒューマン誕生』 p.24, p.87) *1


けれども、現実の世界においては指数関数的な成長が観察できるテクノロジーは多くありません。また指数関数的に成長するテクノロジーも、いずれ停滞を迎え、一部は崩壊します。これは論理的にも実証的にも確実であり、科学的発見やテクノロジーの成長のみならず、自然現象についても当てはまります。

ただ半導体技術だけは、例外的に長期間指数関数的な成長が続いています。けれども、半導体技術も永久に成長が続くという根拠は何もありません。

実のところ、単一のテクノロジーの指数関数的成長がシグモイド曲線を取ることはカーツワイル氏も述べていますし、また『ポスト・ヒューマン誕生』以降に発表された書籍やインタビューでは、必ずしもあらゆるテクノロジーが指数関数的成長を遂げるわけではなく、情報テクノロジーのみが指数関数的成長をすることを認めています。(ただし、後述する通り、ゲノムのシーケンシングや太陽光発電など、情報テクノロジー以外のテクノロジーを指数関数的成長の事例として挙げていることもあり、指数関数的成長の適用範囲がどこまでであるかは必ずしも明らかではありません。)


「あらゆるテクノロジーが指数関数的成長をするわけではない」という事実自体は、必ずしもシンギュラリティ論に対する有効な反論ではありませんが、議論の出発点としてここで検討します。

指数関数的成長

カーツワイル氏によるあらゆる議論の前提は、「テクノロジーは指数関数的に成長する」という仮説です。指数関数の成長は、初めのうちはごく小さいけれども、ある点を超えると急速に立ち上がり爆発的な増加を見せ、その増加率はほとんど「垂直」すなわち無限にまで達します。カーツワイル氏は、このような指数関数的な成長が、あらゆるテクノロジーにおいて観察できると主張しています。

 

次回以降、あらゆるテクノロジーの成長が本当に指数関数的なのかを検証します。

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 線形関数と指数関数の「立ち上がり」の点

 

 

*1:正確には、次章で述べる「収穫加速の法則」があらゆるテクノロジーに適用できると述べています。