シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

カーツワイルの「宇宙の覚醒」とは何か

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引用元:Hubble Space Telescope Images | NASA

人類がシンギュラリティを迎えた後、カーツワイル氏は、機械と融合した人類の知性が光速 (ないし亜光速)であらゆる物質を計算装置に変化させながら、宇宙へ拡大していくと述べています。そして、いずれは宇宙が「覚醒」し、宇宙全体が"spirit"で満たされると主張しています。

そして人類の文明は、われわれが遭遇する物言わぬ物質とエネルギーを、崇高でインテリジェントな――すなわち、超越的な――物質とエネルギーに転換しながら、外へ外へと拡張していくだろう。それゆえある意味、シンギュラリティは最終的に宇宙を魂で満たす、と言うこともできるのだ。

率直に言えば、この章は本当に書く必要があるのかどうか迷いました。「宇宙の覚醒」という、好意的に表現すれば、「壮大なサイエンスフィクション的スペクタクル」を、悪意を持って言えば「馬鹿げた与太話」を真剣に捉えている人は、ごく僅かだろうからです。

私は、カーツワイル氏のこの記述を文字通りに読むべきなのか、何らかの暗喩として捉えるべきなのか、それとも単に (リーナス・トーヴァルスが言う通り) LSDをキめている最中に見た幻覚を表現した芸術作品であるのか、よく分かりません。そして、人工知能のシンギュラリティを好意的に取り上げている人であっても、「宇宙の覚醒」について真面目に論じている人はほとんど存在していないように見えます。おそらく、あまりに壮大な話であるために、現在の投資資金や研究資金獲得には何の役にも立たず、むしろ正気を疑われる可能性すらあるからでしょう。

実際のところ、こんな遠い未来に関する壮大な予測が存在することによる社会への悪影響はごく僅かですし、そもそも誰もこの予測を真剣に信じていないでしょう。そのため、私もここで「宇宙の覚醒」に関して詳細に論じるつもりはありません。

ただし、ここには1点だけ非常に重要な論点が含まれていると考えているので、少しだけ検討しておきたいと考えています。それは、「なぜ既にシンギュラリティを迎えた地球外生命体が確認できないのか」あるいは「そもそも地球外知的生命体の存在が全く確認できないのはなぜか」という「フェルミパラドックス」と呼ばれる問題です。

 

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