シンギュラリティ教徒への論駁の書

"Enjoying science fiction is not the same thing as doing science or making science policy." - Dale Carrico

シンギュラリタリアンの認知的不協和と合理化

前回、「認知的不協和の理論」および、その不協和を解消する「合理化」について説明しました。

 

現在のカーツワイル氏とシンギュラリタリアンの議論においてさえ、「テクノロジーの発展が指数関数的ではない」という現実を合理化する議論の存在を指摘できます。

指数関数の「立ち上がり」

曰く、指数関数の成長は一次関数よりも遅いと主張するものです。指数関数の初期には成長はごく僅かであり、線形な予測による期待を下回ることさえある。指数関数は、あるポイント、「立ち上がりの点」を過ぎなければ爆発的に成長しない。ゆえに、投資家や起業家は、世間の人々の期待をコントロールし、テクノロジーヘの投資を絶やさないように社会を説得し続けなければならない、と説かれています。

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図 指数関数と交差する線形関数と「立ち上がりの点」

 

一見もっともらしく聞こえる説明であり、なかなか芽の出ない技術者や起業家を勇気付ける物語としてはよくできています。既に指摘した通り、指数関数は自己相似形であり、特別な『立ち上がりの点』は存在しません。更にもう一点指摘しておくと。指数関数は下に凸で単調増加する関数です。*1 つまり、成長率を測定し接線を引いた場合(線形に成長率を予測した場合)、指数関数のグラフはその接線よりも必ず上に位置します。

つまり、仮にテクノロジーの成長が指数関数的であった場合、成長率の線形な予測と指数関数的が交差するような現象は、発生しないということです。

宇宙開発や核融合発電の技術開発は、必ずしも過去の予測通りに進んでおらず、むしろ人々の予測以下の進捗でしかないと、これまでにも私は指摘してきました。そのような時にも、「技術開発は指数関数的だから遅いのだ」という合理化が頻繁に使われています。

連続するS字曲線

けれども、カーツワイル氏の議論の中には、既に更なる合理化の方法が準備されています。

曰く、テクノロジーの成長曲線は、連続するS字曲線 (シグモイド曲線) を取るというものです。

単独のテクノロジーが指数関数的に成長するわけではなく、停滞と「パラダイムシフト」を挟んだ連続するS字曲線が続いていくために、全体として見ればやはり大きな指数関数的な成長曲線を遂げる、という主張です。

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図 連続するS字曲線

 

なるほど確かに、将来いつかの時点で指数関数的な成長が再開されるという主張は、未来の話である限り、完全には否定できないものです。現在停滞しているテクノロジーであっても、また新たにS字曲線が立ち上がり、指数関数的な成長が続いていくという可能性は存在するでしょう。

 

けれども、先に取り上げたカーツワイル氏の過去の予測実績人間の寿命予測を思い出してください。過去の実績を見れば、S字曲線の次の「立ち上がり」がいつであるかは、カーツワイル氏自身ですら予測不可能だったと言えます。仮に「情報テクノロジーと融合したテクノロジーは指数関数的な成長を遂げる」という仮定を受け入れるとしても、「それがいつ発生するか」は分かりません。コンピューティングの次のパラダイムや、劇的な寿命延長が将来開始されるかもしれません。けれども、10年後なのか100年後なのか、それは分かりません。

そして、この連続するS字曲線を信じる限りは、永久に「現在の停滞は、あくまで一時的なものである」と言い続けられるでしょう。つまり、カーツワイル氏の元々のモデル自体に、既に合理化のための手法が含まれていると言えます。

そして、今後、カーツワイル氏の予測が外れるに従って、さらにクリエイティブな合理化のための説明がたくさん考案されるでしょう。

*1:下に凸⇔接線の傾きが減少しない⇔二階微分が非負