シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

未来学者モディス氏による収穫加速の法則への批判

カーツワイル氏が宇宙、生命、人類史とテクノロジーに渡る指数関数的な成長を示した「収穫加速の法則」のグラフについて、事象の発生間隔が指数関数的に短縮されるという結論を示すため、「パラダイム」が恣意的に選択されている、という批判を既に述べました。

 

けれども、「パラダイム」が恣意的であるという批判に対してカーツワイル氏は再反論しています。15個の独立した情報源を用いて同様のグラフを描いても、やはり同じように指数関数的な「パラダイム」間の時間間隔の短縮が見られるというものです。

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この再反論に対して、「パラダイム」が定義されていないという問題は解決されておらず、このグラフから有意味かつ反証可能な将来予測を引き出すことはできないため、批判に対する有効な回答とはなっていないことを既に述べました。

 

更に、このグラフに対して根本的な批判を加えている人が存在します。医師であり未来学者で、カーツワイル氏に対する有力な批判者であるセオドア・モディス氏です。

以下に、モディス氏の議論を翻訳して紹介します。

[訳注: 『ポスト・ヒューマン誕生』] 第一章におけるグラフのあらゆるデータは、カーツワイル氏によるこのテーマのイントロダクションとして重要な役割を果たしているが、私の2つの記事から取られたものである[1, 2]。宇宙の発展におけるマイルストーンを構成する14個のデータセットは、私が調査したものだ。私は、独立した情報源からデータを得ようと努力したけれども、成功しているとは言い難い。
2つのデータセットが独立したものではないことは、記事中に明記されている。一つのデータセットにおいては正確な値が得られなかったため、私自身がデータを挿入した。その他のデータセットは私の推測にもとづいている。どちらのデータセットも、他の12個のデータセットから受けた影響によって強いバイアスが存在している。更には、いくつかのデータの情報源は端的に根拠として弱いものである。(たとえば、生物学の教授によって講義の課題としてインターネット上に投稿された記事であり、現在では既に削除されている。)

 

実際のところ、全ての範囲 (ビッグバンからインターネットまで) の期間をカバーしているのは、ただ一つのデータセット (カール・セーガンの宇宙カレンダー) のみである。その次の完全なセット (ノーベル賞受賞者のポール・ボイヤーによるもの) は、年の値が示されていない。それ以外の全てのデータセットは、さまざまな基準によって集められた、全ての期間のうちの一部に限られた範囲を占めるのみのデータであり、さまざまな手法によって得られたものである。その結果、それぞれの専門家が注目する基準により、マイルストーンの重要性に対して不規則な重み付けがなされていいる。

 

真剣な科学者であるならば、自身の中心的な主張を支持するデータの質を二重チェックし、含まれる不確実性を推定しなければならない。カーツワイル氏はそのどちらも怠っている。それどころか、カーツワイル氏は私の記事から更にデータ (以前の13個のデータの平均値) を加えて、15個の独立した情報源からの証拠が存在すると吹聴しているのだ!*1

 

[1] T. Modis, Forecasting the Growth of Complexity and Change, Technological Forecasting and Social Change, 69.4 (2002) 377-404

[2] T. Modis, The Limits of Complexity and Change, The Futurist, (May-June 2003) 26-32.

 

つまり、このグラフはカーツワイル氏が主張するほど「独立」した情報源から取られたものではなく、データの網羅性・信頼性も低いものであるということです。

*1:Theodore Modis(2006) "The Singularity Myth"