シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

収穫加速の幻影 補遺

これまでも度々取り上げた、カーツワイル氏が宇宙、生命と人類史の指数関数的成長を例証したと主張するアイコニックなこのグラフですが、このグラフに対する批判もまとめておきます。

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  • そもそも、「生命」、「人類史」と「テクノロジー」を時間という単一の指標で比較することに、何か意味があるのか。
  • 何がパラダイムなのか定義されておらず、恣意的に選択されている。
    たとえば、「絵画、初期の都市」をまとめて1つの点として扱っており、逆に冶金、製紙法や量子コンピュータなど、重要な発明が含まれていない。
  • 過去に遡るほど情報が得られにくくなり、現在に近いほど情報量が増えるため、近年の出来事ほど多く選択されやすくなる傾向が存在するのではないか (サンプリングバイアス) 。
  • 生命進化の現象は、グラフ上の1点として提示できるほどに分離していない、断続的に継続されるプロセスであると考えられる。
  • 横軸は、なぜ「現在までの時間」なのか。「法則」であるならば時間の基準の設定に依存せず成立するべきである。300年前に基準を置けば、産業革命こそが特異点であると言え、100年後であればやはりその時点での「現在」が特異点であると言えるだろう。
  • 縦軸は、なぜ「次の事象までの時間」なのか。そもそもが指数関数的な傾向を持つ事象の系列の差が指数関数的になることは当然ではないか。

 

なお、ここで取り上げた論点は私だけが指摘しているものではなく、WIRED誌の創刊編集者ケヴィン・ケリー氏、分子生物学者であり著名ブロガーのPZマイヤーズ氏、日本では産総研機械学習研究者の一杉裕志氏などが同様の指摘を加えています。(上記の論点は私自身が考察したものですが、注意深く見ればおそらく誰でも気付くことだろうと思います。)