シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

人工知能研究と機械学習

前節では、精神転送 (マインドアップローディング) の実現可能性を検討することを通して、人間の脳の再現によって人工的な知能を構成する方法について検討しました。条件を緩和して、「ある個人の人格そのものの複製」という方法ではなく「一般的なヒトの脳のモデリングによる人工的な知能の実現」を考えたとしても、必要となる脳と知能の機能が解明されるまでには相当の時間を要します。少なくとも、カーツワイル氏が主張するように、ここ10年程度の単位で可能だとはあまり考えられません。

 

けれども、「人工的な知能」を作成するため方法は、脳の再現のみではありません。というよりも、過去半世紀ほど実践されてきた「人工知能」の研究では、必ずしも人間の脳を再現するというアプローチを取っていたわけではありません。人間の「思考」プロセスそのものを再現することを目指していたり、あるいは人間の思考とは全く関係のない形で、実用的な機械学習の技術が実現されてきました。

そこで、本節では過去の「人工知能」研究の歴史を簡単に振り返り、また「機械学習」の手法を通した人工的な知能の実現可能性について検討します。

序文から何度か書いてきている通り、私は人間と同程度の知能を持つ「人工物」ができうることは否定しません。けれども、その「人工的な知能」は、現在の技術の延長線上にはない可能性が高いこと、その実現時期に関するカーツワイル氏の見積りは過少である可能性が高いことを説明したいと考えています。