シンギュラリティ教徒への論駁の書

"Enjoying science fiction is not the same thing as doing science or making science policy." - Dale Carrico

カーツワイル氏の過去の予測を検証する ─ 2009年 (2)

以下の引用は、フューチャリストレイ・カーツワイル氏が、1999年 (邦訳は2001年) の著書『スピリチュアルマシーン』の中で発表した、10年後 (2009年) の将来予測の後半部分です。

予測の詳細な検証は、後の記事をご覧ください。

 

ビジネスと経済

ときおり修正はあったものの、2009年までの約10年間、製品やサービスの知識コンテンツの台頭により、継続的な経済成長と繁栄が見られた。もっとも伸びているのは相変わらず株式相場である。2000年代初期、物価の下落がエコノミストに不安を抱かせたが、彼らはすぐにそれが悪いものではないことに気づいた。何年にも前にコンピュータのハードウェア、ソフトウェア産業に著しい物価下落が生じたが、ハイテク業界は、損失はなかったと指摘したからである。

 

アメリカは、その大衆文化の影響力と創造的なビジネス環境により、依然として経済をリードしつづけている。情報市場はおもに世界を相手にする市場であるから、アメリカにとってその移民の歴史は大いに役立ってきた。アメリカが世界中の民族--つまり、よりよい生活のために大きな危険を冒しつつ世界各地から集まってきた人々の子孫--で構成されていることは、知識ベースの新しい経済にとって理想的な遺産である。
中国もいまや強力な経済国になっている。ヨーロッパーは、ベンチャー精神を促進させるベンチャー・キャピタル、従業員ストック・オプション、税制において、日本や韓国の数年先を行っている。ただし、こうした動きは世界的に広まりつつある。

 

少なくとも取引の半分はオンラインで行なわれている。連続音声認識自然言語理解、問題解決、イメージ・キャラクタなどを統合した「インテリジェント・アシスタント」が情報を探したり、質問に答えたり、取引を行なったり、といった手助けをしている。インテリジェント・アシスタントは情報ベースのサービスにおいて主要なインターフェイスになっており、幅広い選択もできるようになっている。
最近の世論調査によると、男性ユーザーも女性ユーザーも、インテリジェント・アシスタントには女性を好むという。そしてもっとも人気のあるイメージ・キャラクタは、自称ハーヴァード・スクウェアのカフェで働く「マギー」というウェイトレスと、ニューオーリンズ出身のストリッパー「ミッシェル」だそうだ。キャラクター・デザイナーの需要は高く、ソフトウェア開発において成長分野になっている。

 

本、音楽アルバム、ビデオ、ゲームなどのソフトを購入する場合、実際に物理的に「物」をやりとりする場合はほとんどない。こうした情報提供を行うための新しいビジネスも登場している。
これらの情報オブジェクトを買うには、まず仮想ショッピング街を散歩し、興味を引いたものをチェックする。そしてすぐに (そして安全確実に) オンラインで取引をし、つぎに高速ワイヤレス通信によって即座にその情報をダウンロードする。こういった商品へのアクセス権を入手するための取引方法には、じつにさまざまなものがある。本、音楽アルバム、ビデオなどを買い、それによって永久かつ無制限にこれらへのアクセス権を手にすることもできるし、1回または数回、読んだり、見たり、聴いたりするアクセス権を借りることもできる。アクセスは1人か1グループ (たとえば家族や仲間) に限られる場合もあるし、特定のコンピュータに限られる場合もある。またコンピュータそのものは任意だが、特定の1人または特定の何人かがアクセスするコンピュータに限られることもある。

 

仕事のメンバーが、地理的に離れて仕事をする傾向が強くなっている。異なる場所に住んで仕事をしているにもかかわらず、グループでうまく仕事を進めている。
平均的家庭には、100台以上のコンピュータがあるだろう。そのほとんどは家庭用電化製品や備え付けの通信システムに組み込まれている。家庭用ロボットも登場しているが、まだ十分には受け入れられていない。

 

「インテリジェント・ロード」(コンピュータで自動車の動きを制御する道路) が主として長距離移動に使用されている。自動車のコンピュータガイダンスシステムが、インテリジェント・ロード上にあるコントロールセンサーにロックインすると、あとはゆっくり座っていられる。ただし、一般道はほとんど従来のままである。

 

ミシシッピー川の西、メーソン-ディクソン線の北にあるとある企業 [これはマイクロソフト社を指している] は、マーケット・キャピタライゼーション (企業の市場価値) が1兆ドルを超えた。

 

政治と社会

プライバシーが大きな政治問題になっている。事実上間断なく電子通信技術が使われているため、各個人の動き1つひとつが詳細な痕跡となって残りつつある。すでに起きている多数の訴訟により、個人データの広範な流出にある程度の歯止めがかけられている。しかし役所は依然として、個人のデータ・ファイルヘのアクセス権をもっているため、結果として解読不可能な暗号技術が一般的になっている。

 

技術の梯子が上方へ伸びるにつれ、ネオ・ラッダイト運動が盛んになりつつある。過去のラッダイト運動と同じように、その影響は、新しいテクノロジーによって可能になる繁栄により制限を受けている。ただしネオ・ラッダイト運動は、教育を、雇用と関連するもっとも重要な権利として継続させることにおいて、まちがいなく成功をおさめている。

 

技術の梯子に取り残された下層階級に対する懸念はいまもある。しかし下層階級の規模は変わらないように見える。政治的に評判は悪いが、公的援助と、全体として高いレベルの豊かさによって、下層階級は政治的に無力化している。

アート

高品位のコンピュータ画面と描画ソフトによって、いまや、コンピュータの画面はビジュアル・アートの選択メディアの1つになっている。たいていのビジュアル・アートが、人間のアーティストと知的なアートソフトとの合作である。仮想絵画--高品位の壁掛け型ディスプレイ--が人気を博している。従来の絵画やポスターのようにいつも同じ作品を展示するのではなく、声による命令で展示品を変えたり、アートコレクションを順番に展示することもできる。展示される作品は人間のアーティストによるものもあるし、サイバネティック・アートソフトによってリアルタイムにつくられるオリジナル作品もある。
人間のミュージシャンはたいてい、サイバネティック・ミュージシャンと一緒に演奏している。音楽創作はミュージシャンでない人でもできるようになった。音楽をつくる場合、従来のように、筋肉の動きを微妙に協調させながらコントローラを使う、といったことは必ずしも必要ではなくなったのだ。サイバネティック音楽創作システムにより、音楽は好きだけれど音楽理論に疎いといった人でも、自動作曲ソフトを使って音楽をつくれるようになっている。人間の脳波と聴いている音楽との間に共鳴を生み出す双方向的な「脳生成音楽」も人気のあるジャンルの1つだ。

 

ミュージシャンは古いアコースティック楽器 (ピアノ、ギター、バイオリン、ドラムなど) の演奏スタイルを模倣するエレクトロニック・コントローラを使っているが、手、足、口などの身体部分を動かして音楽をつくる新しい「エアー・コントローラ」にも大きな関心が集まっている。このほか、特別に設計されたデバイスと対話するようなコントローラもある。

 

作家は音声入力ワープロを利用している。文法チェック機能は、本当に使えるものになっている。また論文から本にいたるまで、文書の配布には紙やインクを必要としない。文書の質を上げるために、文体チェックや自動編集ソフトが広く利用されている。さまざまな言語の文書を翻訳するソフトも広く使われている。しかし、書き言葉を生み出す中心的プロセスは、ビジュアル・アートや音楽ほど、インテリジェントソフトに影響されてはいない。とは言え、サイバネティック作家も登場しつつある。

 

音楽、画像、ビデオ映画以外でもっとも人気のあるデジタル・エンタテイメント・オブジェクトは、仮想体験ソフトだ。こうした双方向仮想環境によって、たとえば仮想の川で水しぶきを浴びながら川下りをしたり、仮想のグランドキャニオンでハングライダーを楽しんだり、さらに好きな映画スターとご親密になったりすることができる。
仮想現実の視覚的、聴覚的体験はなかなかのものだが、触覚的体験の方はまだ十分ではない。

戦争

コンピュータと情報通信におけるセキュリティは、アメリカ国防総省の最大の焦点である。コンピュータの能力の完全性を維持できる側が戦場を制する、というのが一般的な認識である。
人間は戦場から遠く離れた場所に控えており、戦闘は無人の飛行装置によって支配される。こうした飛行兵器の多くは小鳥ぐらいの大きさか、それより小さいものである。

 

アメリカは依然として世界一の軍事大国である。このことは広く世界に認められているので、ほとんどの国は経済競争に専念している。国家間の軍事衝突はごくまれで、衝突はほとんどの場合、国家と小さなテロリスト集団との間で起きている。国家安全の最大の懸念は生物工学兵器である。

健康と医療

生物工学的治療によって、ガン、心臓病、その他さまざまな病気による死亡者数が減少している。病気の情報処理基盤の理解がいちじるしく進歩しつつある。
遠隔医療が広く利用されている。医師は遠方から視覚的、聴覚的、触覚的な診断を利用して、患者を診察することができるようになっている。比較的安い装置と、技師が1人いるだけの病院が、それまで医者のいなかった遠隔地に医療を提供している。

 

コンピュータによるパターン認識を使って画像化データを解釈している。非侵襲的画像化技術がかなり増えてきた。診断はほとんどの場合、人間の医師と、パターン認識を基本にしたエキスパートシステムとの連携で行なわれている。通常医師は知識ベースのシステムを調べ (たいてい双方向の音声コミュニケーションを使う)、システムは自動化された指示、最新の医学研究、実践ガイドラインなどを提供してくれる。

 

患者の障害の記録は、コンピュータのデータベースに保存されている。他の多くの個人情報データベースと同様、こうした患者の記録に関するプライバシーの不安が、大きな問題として浮上している。

 

医師はたいてい、触覚的インターフェイスを備えた仮想現実環境で腕を磨いている。これらのシステムは、たとえば手術のような医療処置の視覚的、聴覚的、触覚的体験をシミュレートするものだ。模擬患者は、引き続き医学教育、医学生、さらには医者を体験してみたい人に利用されている。

哲学

機械の知能をテストするために1950年にアラン・チューリングによって提唱されたチューリングテストへの関心がふたたび高まりつつある。前にも触れたように、チューリングテストは、人間の判定員が、コンピュータと人間に端末を使ってインタビューする状況を観察するテストだ。もしその判定員が、人間と機械を区別できなければ、機械は人間と同レベルの知能をもっているということになる。コンピュータはまだこのテストをパスしていないが、この先10年か20年のうちにパスできるだろうという考えが強くなってきている。

 

知的なコンピュータが知覚 (つまり意識) をもつがどうかが、真剣に考えられている。ますます歴然としてきたコンピュータの知能が、哲学への関心に拍車をかけている。

 

スピリチュアル・マシーン―コンピュータに魂が宿るとき

スピリチュアル・マシーン―コンピュータに魂が宿るとき