シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

2018-01-01から1年間の記事一覧

翻訳:Uber、ムーアの法則、テクノフィックスの限界 (カート・コブ)

この記事は、エネルギー・環境問題のジャーナリストであるカート・コブのブログ記事 "Uber, Moore's Law and the limits of the technofix" の翻訳です。 Uberはテック界に愛され続けている。個人用自動車とその所有者の未使用のキャパシティを認識したディ…

シンギュラリティ論を真剣に捉えて批判するべき10個の理由

シンギュラリタリアン/トランスヒューマニストはバカで間違っているとしても、バカの間違いを公然と指摘することは必ずしもバカげてはおらず、間違いでもない。 科学技術の成果の過剰誇張と将来の可能性に対する誇大広告は、現状の技術的アチーブメントの到…

追記あり:レイ・カーツワイル新刊情報 『Danielle』および『Singularity is Nearer』について

レイ・カーツワイル氏が、2019年1月1日に新刊『Danielle: Chronicles of a Superheroine(ダニエル:スーパーヒロイン物語)』を発売するとのことです。「ダニエル」という名前の女の子が、自身の知性と勇気とテクノロジーの力を使い世界の難問に挑戦してい…

レイ・カーツワイル『スピリチュアル・マシーン』を読んで、シンギュラリティ論への違和感の原因が理解できた

私が『ポスト・ヒューマン誕生』でのカーツワイル氏のシンギュラリティ論を読んだ時、疑問を感じたことがあります。 カーツワイルの未来予測において根幹を成す仮定は、「宇宙の"秩序"が指数関数的に加速する」という原理、「収穫加速の法則」です。一方で、…

日米シンギュラリティ論比較 知能爆発説 vs. 収穫加速説

過去数年間、日本とアメリカの (英語で書かれた) シンギュラリティ論を追っていくなかで気がついた、興味深い若干の差異があります。 アメリカのシンギュラリティ論では、知能爆発説、つまり「将来のある時点で人間を超えるシードAIが作成される。そのAIは爆…

論文紹介:ナノテクノロジーの20年 科学の未来をどう語るか (リチャード・ジョーンズ)

本ブログでも過去に何度か取り上げている、イギリス、シェフィールド大学の物理天文学科教授でナノテクノロジーの専門家であるリチャード・ジョーンズ氏が、過去のナノテクノロジーおよび科学技術一般の将来予測に関する論説を IEEE Nanotechnology Material…

ロドニー・ブルックス氏の『超知能へ向けたステップ』の翻訳

いちおうの告知ですが、ロドニー・ブルックス氏のブログ記事合計4件を翻訳してQiitaに投稿しました。 安易で安直な人工知能ユートピア/ディストピア的なシンギュラリティ論に与せず、また人工知能研究の第一人者としてのオプティミズムを保ちながら人工知能…

悪しき未来学: 「人生100年時代」の根拠の怪しさについて

このシンギュラリティ懐疑論を書いている中で、特にリアル知人から受けた典型的な反応は「ごく一部の馬鹿と利害関係者を除いて、誰もそんな話信じていないでしょ」というものでした。確かに、シンギュラリタリアニズム/トランスヒューマニズム的な将来予想を…

書評:数学破壊兵器 『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』(キャシー・オニール)

おそらく、ここ数年出たAI・ビッグデータ関連本のなかでは最重要な本。個人的には、このブログを読むような人は、立場にかかわらず必ず読むべきだと思う。 あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 作者: キャシー・オニール,久保尚子 出版社/…

翻訳:超知能AI神の存在確率 (デール・キャリコ)

以下は、カリフォルニア大学バークレー校の修辞学部の講師であり、批評理論家、修辞学者のデール・キャリコによる"Nicholas Carr on the Robot God Odds" の翻訳(一部抄訳)です。(私が思うに、デール・キャリコは、シンギュラリタリアニズム/トランスヒュー…

シンギュラリティは雪男である

私のシンギュラリティ懐疑論の立場は、「シンギュラリティは来ない」ではなく「シンギュラリティが来るという根拠がない」というものです。 私のこの立場については、これまでも何度か説明してきているのですが、再度整理しておきたいと思います。*1 「人間…

論文紹介:『もしとならば: ナノ倫理思考実験批判』(アルフレッド・ノルドマン)

近年の「人工知能」を取り巻く言説の興味深い点としては、テクノロジー自体やその開発の見通しよりも、テクノロジーの発展に伴う社会的・倫理的影響のほうに大きな注目と関心が集まることが挙げられます。このような、テクノロジーがもたらす影響についての…

翻訳:約束の経済

以下の文章は、イギリス、シェフィールド大学天文物理学科教授であり、ナノテクノロジーを専門とするリチャード・ジョーンズ教授が2008年に公表した文章 "Economy of Promises" の翻訳です。 なお、編集された版がNature Nanotechnology誌のサイトに掲載され…

ハイプとハイプ・サイクル

残念なことに、強調と過剰な熱意と誇張の間には違いがある。ハイプは文字通りに理解するためのものではない。 デイヴィッド・M・ベルーベ著『ナノ・ハイプ狂騒』(上巻 p.32) 新たなテクノロジーの黎明期に、「ハイプ」--過大評価と誇大広告-- が見られるとい…

ハイプとは何か?

新たなテクノロジーの出現時には、「ハイプ」 --すなわち、開発者による誇大広告と一般大衆の過剰な期待、より広く言えば、将来の可能性に対する「過大評価」と「誇張」-- またその裏返しである「恐怖」が見られます。これは何も、最近の機械学習と人工知能…

テクノ・ハイプ論 ~なぜシンギュラリティは問題か~

「シンギュラリティの主張は、はっきりとした科学的証明がなされていないという点で、認識論的に間違っている。しかしそれだけで済ますことはできない。シンギュラリティの主張は、倫理的にも非難されるべきである。シンギュラリティという特殊なシナリオを…

翻訳:シンギュラリティは近くない:「シンギュラリタリアン」の知的欺瞞

以下は、ジャーナリストのCorey Pein氏による記事 "The singularity is not near: The intellectual fraud of the “Singularitarians” " の翻訳です。 シンギュラリティは近くない:「シンギュラリタリアン」の知的欺瞞 70年以上前、クリスチャンのアナーキ…

翻訳:「人工知能」の種の起源 (ロドニー・ブルックス)

この記事は、ロドニー・ブルックス氏が自身のブログで発表した記事、[FoR&AI] The Origins of “Artificial Intelligence” – Rodney Brooks の翻訳です。 「人工知能」の起源 過去はプロローグである[原注1]。 私はこの言葉に2通りの意味を込めている。シェイ…

翻訳:人工知能  — 革命いまだ成らず

以下は、カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ科学、統計学教授マイケル・I・ジョーダン氏の記事 "Artificial Intelligence — The Revolution Hasn’t Happened Yet" の翻訳です。 人工知能 — 革命いまだ成らず 人工知能 (AI) は現代の真言(マントラ…

そろそろクライオニクス(人体冷凍保存)について一言言っておくか

これまでにも、シンギュラリタリアニズム/トランスヒューマニズムの隠れた動機として、強烈な不死への願望 があることと、その望みはあまり叶えられそうにないことを指摘しました。(精神転送、劇的な寿命延長) けれども、彼らはもう1つ、死後生への期待を託…

翻訳:シンギュラリティが宗教である10個の理由

以下は、ウィリアム・パターソン大学哲学教授のエリック・スタインハート氏の記事 "The Singularity as Religion" の翻訳です。 宗教としてのシンギュラリティ シンギュラリティにまつわる文化と言説のほとんどは、宗教的であると思う。この考えは、部分的に…

計算力のコスト効率の指数関数的成長に関する議論の補足

5章1節の「(拡張)ムーアの法則」に関する議論の補足です。 近い将来におけるシンギュラリティ到来を予測する議論は、これまで延々と述べてきた通り、ほとんどが根拠を欠いたものです。 けれども、ほぼ唯一、比較的明確な実証的根拠に基いた主張があります。…

翻訳:AIについて私は何を心配しているか

この文章は、Google社のソフトウェアエンジニア、機械学習研究者 François Chollet氏がサイトMedium上で公開したエッセイ "What worries me about AI" の翻訳です。 AIについて私は何を心配しているか 免責事項:これは私の個人的見解であり、雇用主の立場を…

翻訳: AIカーゴカルト 超人的人工知能の神話

この文章は、WIRED誌の創刊編集長ケヴィン・ケリー氏がwired.comサイト上で発表したエッセイ"The AI cargo cult - the myth of superhuman AI"の翻訳です。 超人的人工知能の神話 近い将来、コンピュータのAIが我々よりもはるかに賢くなり、AIが私たちのあら…

レイ・カーツワイル氏の2029年予測

こちらは、フューチャリストのレイ・カーツワイル氏が、1999年 (邦訳は2001年) の著書『スピリチュアルマシーン』の中で発表した、30年後 (2029年) の将来予測です。 こちらの予測はまだ10年も先のことであるため、評価は行わず、引用に留めておきます。2017…

わたしもシンギュラリタリアンだ! (あるいは特異点論者のカーツワイル批判)

ここまで、私はレイ・カーツワイル氏の主張を検討し、また強く批判してきました。 確かに、近年では「シンギュラリティ」あるいは「シンギュラリタリアン」という言葉は、カーツワイル氏の個人的主張と強く結び付いています。「2029年」や「2045年」という彼…

シンギュラリタリアンの認知的不協和と合理化

前回、「認知的不協和の理論」および、その不協和を解消する「合理化」について説明しました。 現在のカーツワイル氏とシンギュラリタリアンの議論においてさえ、「テクノロジーの発展が指数関数的ではない」という現実を合理化する議論の存在を指摘できます…

感想文: AI vs. 教科書が読めない子どもたち

「東ロボくんプロジェクト」と「リーディングスキルテスト(RST)」で一躍時の人となった感のある新井紀子氏の新刊。 AI vs. 教科書が読めない子どもたち 作者: 新井紀子 出版社/メーカー: 東洋経済新報社 発売日: 2018/02/02 メディア: 単行本 この商品を含む…

シンギュラリタリアンの『予言がはずれるとき』

これまでの記事で、私は現時点で既にカーツワイル氏の予言の大部分が外れていることを示しました。 今後、時間が経過するにつれて、ますます多くの予言が外れていることが明白となり、2040年、2050年代になっても「シンギュラリティ」なる事象が到来しないこ…

責任ある未来予測

ここまで、私はカーツワイル氏が約20年前に述べた未来予測を評価してきました。 私個人の評価によれば、出版から10年後の予測は正答率55%、20年後については22%という結果でした。比較的短期の予測にはそこそこの正答率を示している一方で、長期トレンドにつ…