シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

シンギュラリティ論を真剣に捉えて批判するべき10個の理由

  1. シンギュラリタリアン/トランスヒューマニストはバカで間違っているとしても、バカの間違いを公然と指摘することは必ずしもバカげてはおらず、間違いでもない。
  2. 科学技術の成果の過剰誇張と将来の可能性に対する誇大広告は、現状の技術的アチーブメントの到達水準を深刻に見誤らせている。この種の誤解と過信は、自動運転車 (実際は運転支援機能付き自動車) の事故でも見られるように、それ自体が危険である。また、その結果として本当に必要となる地味で長期的な投資を必要とする研究開発への関心と投資を削ぐ。
  3. 現在、情報テクノロジーの発展により現実に様々な問題が発生している。我々の倫理的関心と公的な議論空間は希少な資源であるため、願望成就ファンタジーに耽りそれらを乱費するのではなく、テクノロジーの現実の姿と妥当な将来見通しをベースにして公的な議論が行なわれる必要がある。特に、一部のテック系超巨大企業は、現在生じている問題から世間の眼を逸らすため、意図的に夢想的/破滅的な未来像を利用しているとも見なせる。
  4. トランスヒューマニズム/シンギュラリタリアニズム的なナラティブは、困難で、曖昧で、複雑な現実の科学技術の研究開発の実体よりもはるかに魅力的であり、皮相的でセンセーショナリスティックなマスメディアの報道で注目を集める傾向がある。更に、一部の研究者・技術者・企業経営者は、一般大衆の注目と支持とをベースにして政策決定者へ働きかけ科学技術政策をねじ曲げるために、また資金を集めるためにこれらのストーリーを利用している。
  5. トランスヒューマニズム/シンギュラリタリアニズム的なナラティブは、アメリカ的な理念、すなわち世俗的でプラグマティックなテクノロジーの発展と社会変革を通して、千年王国の超越的理想社会をこの現世において打ち立てることができるという半ば宗教的な信念を反映している。そのため、シンギュラリティ的なナラティブの分析は、アメリカの動作原理に関する分析と理解に役立つ。
  6. 日本の科学技術を取り巻く状況--かつての科学技術立国というイメージと、今やその立場から滑り落ちつつあるという危機感--は、悪辣な詐欺師の欺瞞的なセールスピッチに対して極めて脆弱である。(ところで、「負けが込んだ状態での一発逆転狙いの乾坤一擲の勝負」は、第二次大戦での日本の負けパターンを連想する)
  7. 世界を変革するという狂った信念を強固に信じた発信力のある狂信的エリート集団により、世界にどれほどの悪影響がもたらされるかを決して過小評価するべきではない。
  8. 危険な詐欺を詐欺として告発することは何ら誤りではない。
  9. 科学を疑似科学から守護し、真なる信念に対する懐疑精神を推奨することは良いことである。
  10. 必ずしも必要ではないときでさえ、バカをおちょくることはしばしば楽しい。

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この記事は、デール・キャリコによる"Ten Reasons to Take Seriously the Transhumanists, Singularitarians, Techno-Immortalists, Nano-Cornucopiasts and Other Assorted Robot Cultists and White Guys of "The Future" を参照し、一部を翻訳し改変したものです。