シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

コラム

「AIによる政治」を怖れるべき理由

私の別ブログの翻訳プロジェクトで、本ブログのテーマとも関連のある興味深い記事を翻訳した。 この記事で、ジョン・マイケル・グリアは、科学者が政治問題について愚かな主張をしてしまう2つの原因を説明している。それは、「利害」と「価値観」を科学の議…

2019年の衝撃的な未来予測

1年の始まりに、世間では、今年何が起こるかの予測が活発にされているようです。 けれども、ご存知の通り、私は極めて後ろ向きな人間なので、過去になされた2019年に関する予測を紹介し検討してみたいと思います。 2017年1月に公開された2019年についての予…

追記あり:レイ・カーツワイル新刊情報 『Danielle』および『Singularity is Nearer』について

レイ・カーツワイル氏が、2019年1月1日に新刊『Danielle: Chronicles of a Superheroine(ダニエル:スーパーヒロイン物語)』を発売するとのことです。「ダニエル」という名前の女の子が、自身の知性と勇気とテクノロジーの力を使い世界の難問に挑戦してい…

日米シンギュラリティ論比較 知能爆発説 vs. 収穫加速説

過去数年間、日本とアメリカの (英語で書かれた) シンギュラリティ論を追っていくなかで気がついた、興味深い若干の差異があります。 アメリカのシンギュラリティ論では、知能爆発説、つまり「将来のある時点で人間を超えるシードAIが作成される。そのAIは爆…

悪しき未来学: 「人生100年時代」の根拠の怪しさについて

このシンギュラリティ懐疑論を書いている中で、特にリアル知人から受けた典型的な反応は「ごく一部の馬鹿と利害関係者を除いて、誰もそんな話信じていないでしょ」というものでした。確かに、シンギュラリタリアニズム/トランスヒューマニズム的な将来予想を…

リスクアセスメントの特異点 無限大x微小値問題あるいはパスカルの賭け (2)

リスクアセスメントの考え方について議論した前回の記事で、私の議論は『パスカルの賭け』をベースにしていることを述べました。そこで、今回はリスクマネジメントと意思決定理論の観点から見た『パスカルの賭け』について検討してみたいと思います。 パスカ…

リスクアセスメントの特異点 無限大x微小値問題あるいはパスカルの賭け (1)

以前の記事で、私は遠い将来の不確かな未来予測に対して、リスクマネジメントの考え方を適用することを批判しました。 この論点は重要だと考えるので、再度、該当する議論をまとめておきます。 標準的なリスクマネジメントの方法論において、「リスク」とは…

ジェフ・ホーキンス氏のシンギュラリティ観

以前の記事で、私は2種類のシンギュラリティ、すなわち人間を超える超知能が作られる時と、超知能がテクノロジーを高速かつ断絶的に発展させる時を区別しました。 私は、第一のシンギュラリティは起きてもおかしくはない (ただし時期は分からない) けれども…

シンギュラリティ再考:「人間を越える人工知能の開発」が「シンギュラリティ」ではない

このブログを書いている間に私に対して寄せられた議論と質問と反論を読むなかで、「シンギュラリティ」という言葉は、明確な定義がなく各自が勝手な意味で使用しており、シンギュラリタリアンの間ですらその定義に違いがあるため、それゆえ議論に大変な混乱…

クラークの三法則に関する断章 (3) 「十分に発達して"いない"科学技術は、魔法と見分けがつかない」

今回は、クラークの三法則の最後の法則であり、おそらく最も広く知られているであろうこの法則を扱います。 『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』 " Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic." この法則は…

クラークの三法則に関する断章 (2) 「不可能性の自己欺瞞」

今回も、前回に引き続いてクラークの三法則の第二法則を扱います。 『可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされるところまで進んでみることである。』 "The only way of discovering the limits of the possible is to venture a little way past…

クラークの三法則に関する断章 (1) 「可能でもできないコト」

テクノロジーの進歩に関する語りにおいて、頻繁に引用されるフレーズがあります。映画「2001年宇宙の旅」の原作者としても知られる、アーサー・C・クラークが述べた「クラークの三法則」です。 高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほ…

nanoMRIに関する覚書

私の記事を読んだ方から、「IBMとスタンフォード大の共同研究で、既にMRIでナノメートル単位の解像度が実現されている」という指摘がありました。 ナノスケールなMRI画像を得る手法が開発される(2009)https://t.co/rYgfcYgY6N『解像度4nmのMRI技術「NanoMR…

強いAI/弱いAI、汎用人工知能

「人工知能 (Artificial Intelligence)」という言葉は、ドミニク・チェン氏が指摘している通り、人間に対して2種類の問いを投げかけるものです。すなわち、「知能」を人工的に再構築することができるのかという問いと、そもそも「知能」とは一体何であるのか…

不可能、困難、未解決

これまでの私の議論では、「できない」「不可能である」または「難しい」という言葉を安易に使用してきましたが、改めてこれらの言葉が何を意味しているのかを明確に定義しておきたいと思います。 「できない」という言葉は、次の3つの意味に分類できます。…

空飛ぶ不可視のティーポット

シンギュラリティに関する懐疑論を書いていると、しばしば「シンギュラリティが発生しないという証拠を示せ」「○○という技術が実現不可能であるという根拠を、あなたは挙げられないじゃないか」という反論を受け取ることがあります。 けれども、このような主…

趣味や興行としての将棋や囲碁はAIがあっても残る

今年5月、世界最強と言われる囲碁棋士・柯潔氏と、Google傘下のDeepMindが開発する人工知能(AI)「AlphaGo」による対局で、AlphaGoが柯潔氏に対して3連勝を収めて注目を集めました。 また、日本でもプロの将棋棋士とAIの対戦が2012年から開催されていますが…

帰納的推論:(これまで)無限は存在しなかった

私たちが住む、現実の、この世界において、「無限大」は (これまで) どこにも存在しませんでした。(今までのところ) 無限は、ただ人間の頭の中、観念の中にだけ存在します。 図: y=1/xのグラフ 「シンギュラリティ」の本来の意味を説明するために、シンギュ…

指数関数とシグモイド曲線は区別できない

カーツワイル氏の未来予測それ自体とはあまり関係がない数学的 (あるいは哲学的) 事項を、もう1点指摘しておきます。 何らかの物理量の「過去の増加傾向」を観察して、それが指数関数的に増加していることが確認できたとしても、今後もその傾向が永続し指数…

指数関数に特異点はない

カーツワイル氏の未来予測の本質とはあまり関係がない、瑣末な数学的事項ですが1点指摘をしておきます。指数関数には、他の点と区別されるような特別な点、すなわち特異点は存在しません。シンギュラリタリアンは下記のようなグラフを使用して、ごく近いうち…

情報の持つ不思議な性質

前回のエントリでは、指数関数的な成長はただ「情報」を扱うテクノロジーに限られた現象であると述べました。 現代の社会では、既に「情報」が広く扱われて売買されており、情報産業は既に巨大な分野になっています。けれども、改めて「情報」について考えて…