シンギュラリティ教徒への論駁の書

"Enjoying science fiction is not the same thing as doing science or making science policy." - Dale Carrico

レイ・カーツワイル氏の2029年予測

こちらは、フューチャリストレイ・カーツワイル氏が、1999年 (邦訳は2001年) の著書『スピリチュアルマシーン』の中で発表した、30年後 (2029年) の将来予測です。

こちらの予測はまだ10年も先のことであるため、評価は行わず、引用に留めておきます。2017年のインタビュー記事によれば、「わたしの予測は数十年前から変わっていない」そうですので、この予測もまだ有効なのでしょう。

けれども、彼の2009年、2019年の予測とその評価を見た上で、これらの予測をどれだけ信じられるでしょうか?

 

 

コンピュータ

1000ドル (1999年のドル価) 単位のコンピュータは、人間1000人に相当する脳の計算能力 (2000万×10億回の1000倍━つまり毎秒10の19乗×2回━の計算能力) をもっている。

コンピュータとすべての人間の脳を合わせた計算能力のうち、99パーセント以上が人間以外の能力である。

(...)

 

コンピュータによる計算の大部分が、大規模に並列的なニューラルネットに使われており、しかもその多くが人間の脳の逆工学をもとにしている。

 

脳の専門的な領域の多く━大部分ではないが━が解読され、大規模に並列的なアルゴリズムも解明されている。解読された専門的領域の数は数百にのぼり、これは20年前に予測された数より多い。うまく逆工学されたこれら領域の構造が、そのままコンピュータ・ニューラルネットに使われている。人間のものに比べると、コンピュータによるニューラルネットは、計算速度が速い、記憶容量が多いなど、いくつかの点で優れている。

 

ディスプレイは目に移植されている。永久移植か、取り外し可能な移植 (コンタクトレンズに似ている) かを選択できる。イメージは網膜に直接投影され、その高解像の三次元イメージが現実世界に重なる。

この移植型視覚ディスプレイはビジュアル・イメージをキャプチャーするカメラとしても動作するので、入力デバイス、出力デバイスのどちらとしても機能する。

 

もともと聴覚障害の改善策として行なわれていた蝸牛殻移植が、いまや広く普及している。この移植により、人間とワールドワイド・コンピュータ・ネットワークとの間で双方向的な音声通信ができるようになる。

 

人間の脳に高帯域幅で接続する「ダイレクト・ニューラル・パスウェイ」が完成した。これを使えば、いくつかの神経領域 (たとえば、視覚パターン認識や長期記憶の領域) をバイパスし、移植神経内あるいは外部において行なわれるコンピューティングで、この領域の機能を強化したり置き換えたりすることができる。

 

視覚、聴覚、記憶、理性などを強化する、さまざまな神経移植が可能になりつつある。

 

三次元ホログラフィック・ディスプレイがいたるところにある。

 

ナノ・エンジニアリングによるマイクロ・ロボットは、人間の脳と同等の速度と能力をもつコンピュータを搭載している。これらは産業用に広く利用されており、さらに医療でも利用されるようになってきている (「健康と医療」の項を参照)。

教育

人間の学習はおもに仮想教師によって行なわれ、広く普及した神経移植によって強化されつつある。神経移植は記憶力と感覚を改善するが、知識を直接ダウンロードすることはまだできない。学習は、仮想体験、知的双方向教育、神経移植によって高められるものの、依然として、時間をかけて得られた人間の経験と知識を必要としている。

 

仮想教師は人間から情報や知識を与えられなくても、みずから学習する。コンピュータは人間と機械がつくり出した文献やマルチメディアの史料━すなわち、書籍、音楽・美術作品、仮想体験の作品━をすべて読み込んでいる。

 

意味のある新しい知識が、人間がほとんど介入していない機械によってつくりだされている。人間とちがい、機械は簡単に知識構造を共有できる。

障害者

全盲の人用の高性能な視覚ナビゲーション装置、聾唖者のための音声文字化ディスプレイ装置、身体障害者のための神経刺激装置や知的義肢、そしてさまざまな神経移植技術の普及━こうしたことにより、いまや障害に伴うハンディキャップはかなり解消されている。感覚強化装置は、実際にほとんどの人が使用している。

通信 (コミュニケーション)

三次元視覚環境に加え、視覚通信のための三次元ホログラフィ技術もかなり改善されてきた。さらに三次元空間に正確に音を流すソニック通信もある。これらにより、仮想現実同様、いまや「現実の」空間で見聞きできるものの大半に実体がない。

 

たとえば、物理的に近くにいなくても、家族でそろって居間でくつろぐことができる。

 

さらに、直接神経結合を使用した通信が広く利用されている。これを使うと、10年前は「トータルタッチ・エンクロージャー」なるものに入らなければ得られなかった全身を包み込む触覚通信が可能だ。

 

通信の大半に人間は関与しない。人間がかかわるのは、人間と機械との間だけである。

ビジネスと経済

人口は、およそ120億人のままで横這状態になっている。大多数の人間が、衣・食・住そして安全という生活の基本を手に入れている。

 

人間の知能も非人間の知能も、基本的に、さまざまな種類の知識の創造に向けられている。知的所有権をめぐる争いも目立っており、訴訟の数はとどまるところを知らない。

 

製造業、農業、運送業においては、人間の雇用はほとんどない。最大の雇用機会は教育関係で、医者よりも法律家の方がはるかに多い。

政治と社会

コンピュータは、人間および非人間の権威にかけても妥当とみなされたチューリングテストにつぎつぎとパスしている。しかし、これに関しては議論が絶えない。人間にはできるが機械にはできないものを例示することは難しい。人間の能力は個人個人で異なるが、コンピュータはつねに最適なレベルで機能し、さらに技能や知識をコンピュータどうしで簡単に共有することができる。

 

人間の世界と機械の世界の明確な境界線は、もはや存在しない。人間的認識は機械に移植されつつあり、多くの機械が、人間の知能の逆工学から引き出された個性、技能、そして知識ベースをもつ。それとは反対に、機械知能を基盤にした神経移植により、人間の知能や認識機能も向上している。人間とは何か、という定義が重要な法的・政治的問題として浮上してきている。

 

急速に成長する機械の能力について議論を呼んでいる。しかしそれを食い止める効果的な抵抗策はない。もともと機械の知能は人間の管理において従属するよう設計されたから、これまでのところ、人間を脅すような「顔」を見せてはいない。人間は、機械の知能に依存している人間と機械の共存文明を、機械の知能から切り離せないことを理解している。

 

機械の法的権利、それもとくに人間から独立している機械 (人間の脳に組み込まれていない機械) の法的権利についての議論が高まりつつある。機械は法律によってまだ認められていないが、あらゆるレベルの意思決定において大きな影響力をもっているため、保護されている。

アート

音楽、美術、文字、仮想体験などあらゆる分野のサイバネティック・アーティストが、もはや人間や人間組織との連携を必要としない。著名な芸術家の多くは機械である。

健康と医療

遺伝コードにより制御されている情報処理プロセスが完全に理解された結果、老化の解明と改善が進んでいる。人間の平均寿命は延びつづけ、現在は120歳前後である。寿命が大きく延びたことによる精神的な問題に、いま大きな注意が払われている。

 

寿命をさらに延ばすには、脳の一部を含め、バイオニック器官 (機能強化のための電子的器官) をさらに使用する必要があることがわかってきている。

 

ナノボットがいわゆる偵察要員として利用されている。限界はあるものの、血流内の修復機として、あるいはバイオニック器官の要素としても利用されている。

哲学

コンピュータは、明らかに有効なチューリングテストにパスしているが、機械の知能があらゆる点で人間の知能に匹敵しているかどうかに関しては、いまも議論がつづいている。

 

多くの点で機械の知能が人間の知能よりはるかに優れていることは明らかだが、政治的影響を考慮し、機械の知能はその優位性をことさら強調しない。人間の知能から生まれつづける機械知能。そしてその機械知能によってますます強化される人間の知能。人間の知能と機械の知能の境界線はあいまいになりつつある。

 

機械知能の主観的経験は、「機械」がこの問題に加わっていることから見ても、徐々に受け入れられている。

 

機械は、その創始者である人間と同じように、意識があり、さまざまな種類の情動的、精神的体験をしていると主張する。そしてこの主張は広く受け入れられている。