シンギュラリティ教徒への論駁の書

"Unending exponential growth? What drugs are those people on?" - Linus Torvalds

指数関数に特異点はない

カーツワイル氏の未来予測の本質とはあまり関係がない、瑣末な数学的事項ですが1点指摘をしておきます。指数関数には、他の点と区別されるような特別な点、すなわち特異点は存在しません。

シンギュラリタリアンは下記のようなグラフを使用して、ごく近いうちに指数関数が「立ち上がりの点」を迎え、その後成長率がほぼ無限に近づいていくと主張しています。

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けれども、指数関数には「立ち上がりの点」は存在せず、これはグラフ表現上のトリックあるいは錯覚であると言えます。なぜならば、指数関数のグラフは自己相似形であるからです。


たとえば、前述のグラフ全体を縮小すれば、「立ち上がりの点」と「成長率が無限になる点」は将来へと遠ざかっていくように見えます。

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また、逆にグラフを縮小すれば、「立ち上がりの点」と「特異点」を既に通過したと言うこともできます。同じことが、指数関数のグラフ上におけるあらゆる点において成り立ちます。


つまり、指数関数のグラフにおいては、他の点から区別されるような特別な点、特異点は存在しません。裏を返せば、指数関数的な傾向を取る事象においては、あらゆる点が特異点であると言うことができます。ケヴィン・ケリー氏がいみじくも指摘している通り、「特異点はいつも近い」のです。

指数関数的増加を等分目盛のグラフに書いたとき、垂直に近い漸近線になるものが特異点だと定義すると、指数関数的に増加するグラフ上の任意の端点で、そのような無限大の傾きを得ることができる。すなわち、指数関数的増加の中にいる限り、時間軸に沿ったどの点においても、特異点は「近い」ということだ。特異点とは、指数関数的増加を過去にさかのぼって観察するときに、いつでも現れる幻影に過ぎない。グラフは宇宙の始まりに向かって、正確に指数関数的増加をさかのぼっているから、これは何百万年にもわたって、特異点はまもなく起ころうとしていることになる!言い換えれば、特異点はいつも近い。今までいつも「近い」ままであったし、将来もいつも「近い」のだ。
「特異点はいつも近い」: 七左衛門のメモ帳


将来に渡って、2025年、2035年あるいは2045年にも、何らかのテクノロジーの発展が続いていくであろうことは疑いの余地はありません。けれども、たとえばいざ2045年になってテクノロジーと社会を観察してみれば、やはりごく近い将来において無限大へと向かうグラフが描けるはずです。そして、未来の時点での主観的なテクノロジーの進歩は、無限の (またはそれに近い) 速度であるとは感じられないでしょう。


カーツワイル氏の未来予測の根拠は、テクノロジーと社会が指数関数的に成長するという仮説です。けれども、指数関数的な成長を前提とする限り「特異点」は存在しないため、はっきりと言えば、カーツワイル氏による「特異点(シンギュラリティ)」という言葉の使い方は、誤用であると考えています。

もちろん、言うまでもないことですが、指数関数と特異点の数学的な性質の議論とは別に、カーツワイル氏の未来予測は検討される必要があります。けれども、彼の未来予測を考える上では、無用の混乱を避けるため「シンギュラリティ」という語を使うことは控えるべきである、と考えています。