シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

収穫加速の法則批判 「恣意的なパラダイム」

以前このエントリと同じ趣旨の内容を述べましたが、再び簡潔に私の主張を述べます。

 

カーツワイル氏は、以下の「特異点へのカウントダウン」というグラフを用いて、宇宙、生命、人類の歴史とテクノロジーに渡る指数関数的な進歩が観測できると主張しています。

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一見すると、指数関数的な成長を示しているように見えますが、グラフの項目を調べてみると大きな問題があることが分かります。「絵画、初期の都市」のように質的に異なる事象を一つの「パラダイム」として扱っているからです。

仮に、考古学的な発見によって「初期の都市」の形成と「絵画」の発明との間に約100年程度の差があることが判明したとします。すると、グラフは以下の通り変化します。これはもはや指数関数であるとは言えません。

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同じことが、「印刷、実験的手法」や「電話、電気、ラジオ」などについても言えます。逆に、冶金、製紙法や量子コンピュータなど、グラフに無い発明や発見を追加しても同様です。

これは、カーツワイル氏が「パラダイム」が何であるかを定義しておらず、このグラフが指数関数的な線を描くようにパラダイムを恣意的に選択していることが原因です。

ゆえに、カーツワイル氏の主張する「宇宙の始まりからテクノロジーに至る指数関数的成長」は幻影であり、このグラフは何ら意味のある内容を述べておらず、このグラフを用いて将来を予測することはできません。