シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

空飛ぶ不可視のティーポット

シンギュラリティに関する懐疑論を書いていると、しばしば「シンギュラリティが発生しないという証拠を示せ」「○○という技術が実現不可能であるという根拠を、あなたは挙げられないじゃないか」という反論を受け取ることがあります。 けれども、このような主…

ムーアの法則には既に意味はない

前回のエントリでは、「ムーアの法則」の定義を確認し、半導体業界による「プロセスルール」の微細化はこの法則を論じる上では不適切な値であることを述べました。 ムーアの法則を「トランジスタの集積密度の指数関数的向上」という意味として捉えるならば法…

ムーアの法則とは何か

ここで、今までも何度か取り上げた「ムーアの法則」について、改めて検討します。 この言葉も、「シンギュラリティ」や「収穫加速の法則」といった用語と同様にさまざまな意味で用いられており、コンピュータの性能やコスト効率が指数関数的に向上するという…

ムーアの法則と人工知能

第3章でカーツワイル氏の指数関数的なテクノロジーの成長に対する事実認識の誤りを、第4章では「収穫加速の法則」の定義のあいまいさ、非論理性と実証的基盤の欠如に関して批判してきました。

収穫加速の法則 vs.成果増大に関するプランクの原理

科学技術の指数関数的な成長を予測する「収穫加速の法則」を支える原理として、次のような主張がされています。 「一つの重要な発明は他の発明と結びつき、次の重要な発明の登場までの期間を短縮し、イノベーションの速度を加速する。」 なるほど確かに、直…

趣味や興行としての将棋や囲碁はAIがあっても残る

今年5月、世界最強と言われる囲碁棋士・柯潔氏と、Google傘下のDeepMindが開発する人工知能(AI)「AlphaGo」による対局で、AlphaGoが柯潔氏に対して3連勝を収めて注目を集めました。 また、日本でもプロの将棋棋士とAIの対戦が2012年から開催されていますが…

収穫加速の幻影 補遺

これまでも度々取り上げた、カーツワイル氏が宇宙、生命と人類史の指数関数的成長を例証したと主張するアイコニックなこのグラフですが、このグラフに対する批判もまとめておきます。 そもそも、「生命」、「人類史」と「テクノロジー」を時間という単一の指…

収穫加速の幻影

カーツワイル氏は、コンピュータや機械学習などのみの単独のテクノロジーだけが指数関数的に成長すると主張しているわけではありません。そうではなく、「収穫加速の法則」に従い、「パラダイム・シフト」が発生するまでの間隔が指数関数的に短縮されており…

ムーアの法則は収穫加速の法則ではない

先日、あるシンギュラリタリアンの方とネット上で議論をする機会があったのですが、議論を通して彼らが何を考え、どのような内的な論理で「収穫加速の法則」を捉えているのかを理解できたように感じています。 そして、なぜ、これまでの私の議論がシンギュラ…

未来学者モディス氏による収穫加速の法則への批判

カーツワイル氏が宇宙、生命、人類史とテクノロジーに渡る指数関数的な成長を示した「収穫加速の法則」のグラフについて、事象の発生間隔が指数関数的に短縮されるという結論を示すため、「パラダイム」が恣意的に選択されている、という批判を既に述べまし…

帰納的推論:(これまで)無限は存在しなかった

私たちが住む、現実の、この世界において、「無限大」は (これまで) どこにも存在しませんでした。(今までのところ) 無限は、ただ人間の頭の中、観念の中にだけ存在します。 図: y=1/xのグラフ 「シンギュラリティ」の本来の意味を説明するために、シンギュ…

収穫加速の法則批判 「恣意的なパラダイム」

カーツワイル氏の主張する宇宙の始まりからテクノロジーに至る指数関数的成長は幻影であり、このグラフは何ら意味のある内容を述べておらず、このグラフを用いて将来を予測することはできません。

指数関数とシグモイド曲線は区別できない

カーツワイル氏の未来予測それ自体とはあまり関係がない数学的 (あるいは哲学的) 事項を、もう1点指摘しておきます。 何らかの物理量の「過去の増加傾向」を観察して、それが指数関数的に増加していることが確認できたとしても、今後もその傾向が永続し指数…

収穫加速の法則批判 「減速する加速」

本エントリにおいては、「収穫加速の法則」は、「一定期間における『進歩量』の指数関数な増大」の意味で使用します。 前項で述べた、「収穫加速の法則」においてパラダイムが定義されていないという問題も無視しがたいものですが、けれども、実際のところ、…

指数関数に特異点はない

カーツワイル氏の未来予測の本質とはあまり関係がない、瑣末な数学的事項ですが1点指摘をしておきます。指数関数には、他の点と区別されるような特別な点、すなわち特異点は存在しません。シンギュラリタリアンは下記のようなグラフを使用して、ごく近いうち…

収穫加速の法則批判 「未定義のパラダイム」

カーツワイル氏が未来を予測する根拠である「収穫加速の法則」ですが、彼がその「法則」を例証していると主張するグラフが、以下の「特異点へのカウントダウン」と名づけられたグラフです。 なお、本エントリにおいては、「収穫加速の法則」は「『パラダイム…

多義的で曖昧な「収穫加速の法則」の定義

カーツワイル氏がシンギュラリティを予測する根拠である「収穫加速の法則」ですが、彼はこの「法則」を複数の意味で使っており、非常に多義的で曖昧な、対象が定量的ではなく分かりづらい「法則」となっています。 そもそも、(シンギュラリティに関する議論…

収穫加速の法則とは何か

ここまでカーツワイル氏のシンギュラリティ論に関する議論で、あらゆるテクノロジーが指数関数的に成長しているわけではないこと、指数関数的な成長が観察されているのは、ただ情報テクノロジーの隣接分野に限られることを説明しました。 けれども、「単独の…

情報の持つ不思議な性質

前回のエントリでは、指数関数的な成長はただ「情報」を扱うテクノロジーに限られた現象であると述べました。 現代の社会では、既に「情報」が広く扱われて売買されており、情報産業は既に巨大な分野になっています。けれども、改めて「情報」について考えて…

指数関数的成長はごく稀である

前々回のエントリで、飛行機の巡航速度、充電池の容量、そしてエネルギー消費量とナノテクノロジーの特許数の推移について取り上げてきましたが、そのどれを取っても必ずしも指数関数的な成長は観察できませんでした。上記以外にも、指数関数的な成長をして…

指数関数的に成長する無知

指数関数的な成長の議論において、カーツワイル氏 (あるいはシンギュラタリアン) は、非常に重要なポイントを見落としています。知識が指数関数的に増加するにつれて、無知も指数関数的に成長していく場合があるということです。 カーツワイル氏は、ゲノムの…

ほとんどのテクノロジー成長は指数関数的ではない 2

前回のエントリで述べた通り、「あらゆるテクノロジーが指数関数的な成長を遂げる」という観察が、カーツワイル氏による主張の根本原理となっています。けれども、ほとんどのテクノロジーにおいて指数関数的な成長は見られません。

ほとんどのテクノロジー成長は指数関数的ではない 1

カーツワイル氏は、あらゆるテクノロジーは指数関数的に成長していると主張しています。(『ポスト・ヒューマン誕生』 p.24, p.87) *1 けれども、現実の世界においては指数関数的な成長が観察できるテクノロジーは多くありません。また指数関数的に成長するテ…

カーツワイルのシンギュラリティ説とその批判

前回のエントリで述べた通り、レイ・カーツワイル氏のシンギュラリティ説は、必ずしもそれ以前のシンギュラリタリアンの説を踏まえたものとは言えません。けれども、カーツワイル氏の説は最も広く普及しており、現在シンギュラリティについて論じる上で議論…

2045年問題とは何か

2045年問題という言葉を「2045年に人間を超える人工知能 (AI) が作られる」と捉えている人が居るようですが、これは誤りです。カーツワイル氏は、1人の人間と同等のAIが作られる時期は、2020年代の終わりまでであると予測しています。

シンギュラリティ3つの学派

前回のエントリでは、カーツワイル氏によって「シンギュラリティ」という言葉の使い方が、ヴィンジ氏以前のシンギュラリティ論者の意味と180度転換されてしまっているということを指摘しました。「シンギュラリティ」という言葉は、様々な論者がいろいろな意…

シンギュラリティとは何か?

本書では「シンギュラリティ」について考えていくつもりですが、まず初めにシンギュラリティとは何であるのかについて説明します。 この言葉がもともと使われていた数学分野での「特異点」という用語は、一般的な法則が適用できなくなる点、典型的には関数の…

序文

いずれ、人類によって、あらゆる人間の知能を超えた超AIが開発され、その超AIがさらに賢い超々AIを作り続けることによってAIの知能が爆発的に拡大し、人類の歴史に断絶--すなわち、特異点(シンギュラリティ)--がもたらされる。 数年ほど前から、このような…