シンギュラリティ教徒への論駁の書

“Anyone who believes that exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.” - Kenneth Boulding

目次

第一部 「シンギュラリティ」 序文 シンギュラリティとは何か?- カーツワイルのシンギュラリティ説とその批判 ほとんどのテクノロジー成長は指数関数的ではない 収穫加速の幻影 ムーアの法則と人工知能5.1. ムーアの法則5.2. 精神転送5.3. 人工知能研究と機…

2030年の完全自動運転車についての賭け

Doom, Quakeなど著名なFPSゲームのプログラマであり起業家としても知られるジョン・カーマックと、Stack Overflowの創業者ジェフ・アトウッドは、2030年1月1日までにレベル5完全自動運転が実現するか否かについての賭けをしていることを公表しています。 blo…

2029年の人工知能には不可能な5つ(+1)のこと

イーロン・マスク氏が、2029年までに汎用人工知能 (AGI) が実現していなければ驚きだ、と述べたことが注目を集めています。 2029 feels like a pivotal year. I’d be surprised if we don’t have AGI by then. Hopefully, people on Mars too. — Elon Musk (…

レイ・カーツワイルが予言した2019年はどこまで実現したのか? (2021年版)

この記事は、2018年3月17日に本ブログに投稿した記事を2020年末に再評価したものです。 ---こちらは、フューチャリストのレイ・カーツワイル氏が、1999年 (邦訳は2001年) の著書『スピリチュアルマシーン』の中で発表した、20年後 (2019年) の将来予測の検証…

「AIの父」ヤン・ルカン、GPT-3への過剰な期待に警鐘を鳴らす

このブログを読んでいる人であれば、おそらく、OpenAI が開発した言語モデル、GPT-3 について耳にしたことがあるのではないかと思います。GPT-3は 、流暢な文章を生成できるのみならず、コードやデザインまでも生成でき、ごく一部では、言語を解す汎用人工知…

渡辺正峰さんの「20年以内に人間の意識をコンピュータにアップロードできる」説

脳科学者で東大大学院准教授の渡辺正峰さんは、20年以内に人間の意識をコンピュータにアップロードできるようになると主張しています。 ただし、渡辺正峰さんは、ここ3年ほど、同じ主張を繰り返しています。 ・2018年8月20日 グーグルでAI研究を率いるレイ…

レイ・カーツワイルが予言した2019年はどこまで実現したのか?

この記事は、2018年3月17日に本ブログに投稿した記事を2019年2月4日に再掲したものです。備忘のため、2019年一杯はトップ表示しておきます。2020年に、改めて内容の検証を行うつもりです。 ---こちらは、フューチャリストのレイ・カーツワイル氏が、1999年 (…

後書き - シンギュラリティ死の五段階説

過去2年程度、私がこのブログを書いている間に、第三次AIブームとシンギュラリティ論はお決まり通りの興亡の道を辿った。その軌跡は、スイス系アメリカ人精神医学者でありグリーフケアの第一人者、そしてスピリチュアリストでもあるエリザベス・キューブラー…

「AIによる政治」を怖れるべき理由

私の別ブログの翻訳プロジェクトで、本ブログのテーマとも関連のある興味深い記事を翻訳した。 この記事で、ジョン・マイケル・グリアは、科学者が政治問題について愚かな主張をしてしまう2つの原因を説明している。それは、「利害」と「価値観」を科学の議…

あの技術ニュースはどうなった!? テスラの完全自動運転車

2019年4月、アメリカの自動車会社テスラ社の投資家向けイベント「オートノミー・インベスター・デイ」で、同社CEOのイーロン・マスクは、自動運転車についての予想を述べた。それによれば、来年の終わりまでに、公道上で、自動運転用ハードウェアを備えた100…

あの技術ニュースはどうなった!? Moley Robotics のロボットキッチン

2015年ごろ、一流シェフ並みの自動調理ができるとうたうロボットキッチンのデモンストレーションが、大きな注目を集めました。 www.youtube.com デモに対する当時の反応を見てみると、すぐにでもあらゆる家事が自動化され我々は雑事から解放されるのだという…

2019年の衝撃的な未来予測

1年の始まりに、世間では、今年何が起こるかの予測が活発にされているようです。 けれども、ご存知の通り、私は極めて後ろ向きな人間なので、過去になされた2019年に関する予測を紹介し検討してみたいと思います。 2017年1月に公開された2019年についての予…

翻訳:Uber、ムーアの法則、テクノフィックスの限界 (カート・コブ)

この記事は、エネルギー・環境問題のジャーナリストであるカート・コブのブログ記事 "Uber, Moore's Law and the limits of the technofix" の翻訳です。 Uberはテック界に愛され続けている。個人用自動車とその所有者の未使用のキャパシティを認識したディ…

シンギュラリティ論を真剣に捉えて批判するべき10個の理由

シンギュラリタリアン/トランスヒューマニストはバカで間違っているとしても、バカの間違いを公然と指摘することは必ずしもバカげてはおらず、間違いでもない。 科学技術の成果の過剰誇張と将来の可能性に対する誇大広告は、現状の技術的アチーブメントの到…

追記あり:レイ・カーツワイル新刊情報 『Danielle』および『Singularity is Nearer』について

レイ・カーツワイル氏が、2019年1月1日に新刊『Danielle: Chronicles of a Superheroine(ダニエル:スーパーヒロイン物語)』を発売するとのことです。「ダニエル」という名前の女の子が、自身の知性と勇気とテクノロジーの力を使い世界の難問に挑戦してい…

レイ・カーツワイル『スピリチュアル・マシーン』を読んで、シンギュラリティ論への違和感の原因が理解できた

私が『ポスト・ヒューマン誕生』でのカーツワイル氏のシンギュラリティ論を読んだ時、疑問を感じたことがあります。 カーツワイルの未来予測において根幹を成す仮定は、「宇宙の"秩序"が指数関数的に加速する」という原理、「収穫加速の法則」です。一方で、…

日米シンギュラリティ論比較 知能爆発説 vs. 収穫加速説

過去数年間、日本とアメリカの (英語で書かれた) シンギュラリティ論を追っていくなかで気がついた、興味深い若干の差異があります。 アメリカのシンギュラリティ論では、知能爆発説、つまり「将来のある時点で人間を超えるシードAIが作成される。そのAIは爆…

論文紹介:ナノテクノロジーの20年 科学の未来をどう語るか (リチャード・ジョーンズ)

本ブログでも過去に何度か取り上げている、イギリス、シェフィールド大学の物理天文学科教授でナノテクノロジーの専門家であるリチャード・ジョーンズ氏が、過去のナノテクノロジーおよび科学技術一般の将来予測に関する論説を IEEE Nanotechnology Material…

ロドニー・ブルックス氏の『超知能へ向けたステップ』の翻訳

いちおうの告知ですが、ロドニー・ブルックス氏のブログ記事合計4件を翻訳してQiitaに投稿しました。 安易で安直な人工知能ユートピア/ディストピア的なシンギュラリティ論に与せず、また人工知能研究の第一人者としてのオプティミズムを保ちながら人工知能…

悪しき未来学: 「人生100年時代」の根拠の怪しさについて

このシンギュラリティ懐疑論を書いている中で、特にリアル知人から受けた典型的な反応は「ごく一部の馬鹿と利害関係者を除いて、誰もそんな話信じていないでしょ」というものでした。確かに、シンギュラリタリアニズム/トランスヒューマニズム的な将来予想を…

書評:数学破壊兵器 『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』(キャシー・オニール)

おそらく、ここ数年出たAI・ビッグデータ関連本のなかでは最重要な本。個人的には、このブログを読むような人は、立場にかかわらず必ず読むべきだと思う。 あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 作者: キャシー・オニール,久保尚子 出版社/…

翻訳:超知能AI神の存在確率 (デール・キャリコ)

以下は、カリフォルニア大学バークレー校の修辞学部の講師であり、批評理論家、修辞学者のデール・キャリコによる"Nicholas Carr on the Robot God Odds" の翻訳(一部抄訳)です。(私が思うに、デール・キャリコは、シンギュラリタリアニズム/トランスヒュー…

シンギュラリティは雪男である

私のシンギュラリティ懐疑論の立場は、「シンギュラリティは来ない」ではなく「シンギュラリティが来るという根拠がない」というものです。 私のこの立場については、これまでも何度か説明してきているのですが、再度整理しておきたいと思います。*1 「人間…

論文紹介:『もしとならば: ナノ倫理思考実験批判』(アルフレッド・ノルドマン)

近年の「人工知能」を取り巻く言説の興味深い点としては、テクノロジー自体やその開発の見通しよりも、テクノロジーの発展に伴う社会的・倫理的影響のほうに大きな注目と関心が集まることが挙げられます。このような、テクノロジーがもたらす影響についての…

翻訳:約束の経済

以下の文章は、イギリス、シェフィールド大学天文物理学科教授であり、ナノテクノロジーを専門とするリチャード・ジョーンズ教授が2008年に公表した文章 "Economy of Promises" の翻訳です。 なお、編集された版がNature Nanotechnology誌のサイトに掲載され…

ハイプとハイプ・サイクル

残念なことに、強調と過剰な熱意と誇張の間には違いがある。ハイプは文字通りに理解するためのものではない。 デイヴィッド・M・ベルーベ著『ナノ・ハイプ狂騒』(上巻 p.32) 新たなテクノロジーの黎明期に、「ハイプ」--過大評価と誇大広告-- が見られるとい…

ハイプとは何か?

新たなテクノロジーの出現時には、「ハイプ」 --すなわち、開発者による誇大広告と一般大衆の過剰な期待、より広く言えば、将来の可能性に対する「過大評価」と「誇張」-- またその裏返しである「恐怖」が見られます。これは何も、最近の機械学習と人工知能…

テクノ・ハイプ論 ~なぜシンギュラリティは問題か~

「シンギュラリティの主張は、はっきりとした科学的証明がなされていないという点で、認識論的に間違っている。しかしそれだけで済ますことはできない。シンギュラリティの主張は、倫理的にも非難されるべきである。シンギュラリティという特殊なシナリオを…

翻訳:シンギュラリティは近くない:「シンギュラリタリアン」の知的欺瞞

以下は、ジャーナリストのCorey Pein氏による記事 "The singularity is not near: The intellectual fraud of the “Singularitarians” " の翻訳です。 シンギュラリティは近くない:「シンギュラリタリアン」の知的欺瞞 70年以上前、クリスチャンのアナーキ…

翻訳:「人工知能」の種の起源 (ロドニー・ブルックス)

この記事は、ロドニー・ブルックス氏が自身のブログで発表した記事、[FoR&AI] The Origins of “Artificial Intelligence” – Rodney Brooks の翻訳です。 「人工知能」の起源 過去はプロローグである[原注1]。 私はこの言葉に2通りの意味を込めている。シェイ…